二十面相の娘

アニメの方。録画してあったのを全話見る。途中で源治おじさんやら謎の女(香山望)が出てきて不思議に思ったのだが、8話を見逃していたようで、一番最後に見た。
謎の伏線とかではなかったのね。鉄人28号みたいな奴と、序盤の中国女みたいなペアが7話の終わりに出てきたのにその後全然出てこなかったなあと思っていたのだが、見逃しだったとはね。
人間タンクとのことだが、パンプキンシザーズの実質ヒロイン(!)の反対側みたいなキャラ。


トメさんが新井里美新井里美はメイド声優なのか? 忍者ではなかったけど。チコが成人するまで世話係をしているのは良いが、ロンドン暮らしじゃ結婚できないのでは? 空根太作でもいいから捕まえておかないと。
ところで、叔母は結局継母の典型例である以上の役回りはないのだろうか。チコの人格の根本をなす原因という面では大きな影響があるが、作中では狂言回しにすらならない印象。

エリュアールの詩にはやられた。毎回EDで出ていたのになあ。ときどき冒頭で言っている台詞やら「見て、聞いて、考えること」のことかと思ったのだが、歌だった。
誰もが知っている歌、ではないようだけれど。
今フジテレビのサイトのトレーラーを見てみたら、ほとんど前面に詩を出していて笑った。EDでは最初から少女探偵団をプッシュしていたし、全部ばらしてるのかよ。まあ、これも原作が完結しているから出来ること、なのか。


水の第四形態の話を散々していたのに、プラズマや超臨界流体の話が全く出てこなかったのが不思議。それから、形態といえば形態なんだけど、固体・液体・気体の相転移の話をしているなら、相だっていえば良かったのに。そこら辺が、SFかレトロフューチャーかの違いなんだろうか。用語にこだわらないというか。まあ、枝葉末節だけど。



作品としては、非常に面白かった。原作からだいぶ省かれた面があったらしいが、完結している話を構成する利点というか、一貫性があって実に良かった。26話構成にして、もうちょっと話をふくらませても良かったのに、とも思うが、名残惜しいくらいがちょうど良いのかも知れない。


おもしろさの理由としては、大局的には、物語構成の基本に忠実だからだと思う。成長物語であり、失ったものを取り戻す物語であるという形式だ。チコは、両親をはじめに失い、家族を得、そして失う。それに、二十面相は父であり、憧れであるというまんま文学的モチーフみたいな立ち位置で、典型的ではあるが、はやりその分ちゃんと描けば威力は絶大だ。


また、個人的には、太田忠司という作家の新宿少年探偵団という作品が好きで、それも二十面相へのオマージュの作品だったのが、その作品を思い出した。二十面相の娘は、途中まで怪盗物だったのに、いつのまにか怪人物になっていた。サイトによると、アフレコ現場でもそう思ってたらしいけど。それもまた二十面相物の特徴かも知れない。正史からして宝を盗む怪盗から少年探偵団を驚かす怪人に変わっているからな。


二十面相の娘は、チコという13歳(のときを中心とした)の少女の物語だが、宿少新宿少年探偵団の略。作者が決めた)もまた、少年・少女の成長物語だった。
チコは宿少のヒロインの一人、七月響子に似ている。もっとも、七月は何を考えているか表現されたことあまりないので、チコほど内面が伺えないキャラだったが、賢く、挌闘術に優れ、ショートカットなところが似ている。もみ子好きな私。
もっとも、宿少は、途中期間が空いたり、イラストレーターが変わったり、あるいは作者の不調の時期が入っているせいか、はじめに立てた終着点に無理矢理持って行ったせいか、かなりクレイジーなクライマックスだった。まあ、太田忠司という作家は往々にして無茶をするからなあ。ショート・ショート出身の作家だけに、掌返しな終わり方をしたくなるのだろうけれど、長期長編を読む身にもなってくれ。説得力が欲しいだろうに。



アニメをスタッフで見ないのでよく分からないが、キャラクターのデザインがコナンに似ているように感じた。未来少年じゃない方。まあ、関係ないけど。


コナンじゃないが、ラストでロンドンにいたりラスボスが教授だったりするのが初期の冒険探偵小説風でレトロ。少年の名前がケンだったり、あだ名がチコになるのも、実にそれっぽい。22話の小林少年は、ただもうちょっと早くに生まれているべきだったように思う。明智探偵の助手として追い詰めた乱歩の二十面相はどうなったのだ。まんま二十面相といっている以上、正史に繋がらなきゃ嘘だろう。チコに名前をもらったあの男はまだ二十面相をやっているのか。本当の名前はどうなったのか。と、ちょっとググってみたら、「K-20 怪人二十面相・伝」というのが出てきた。K…ケン? まさかそこまでかかっている訳じゃあるまいな。本作と同じ2008年の公開映画(12月20日とあるから、現時点ではまだだが)だ。二十面相複数人説は、すでに二十面相の娘でも出てきている。まあ、この作品と乱歩の二十面相では時代も違うようだし、二十面相は名前だけ借りて中身は別、のようだ。


アニメの演出としてみると、場面切り替えや視点の切り替えがゲームっぽいように感じた。BGMの使い方も、おきまりの探偵物風ではあるが、戦闘時やらホラー演出などはゲームに近い。レトロ物なのにOPの飛行船を3Dのワイヤフレームで見せてみたり、ゲームっぽい印象は募る。チコのチート的能力も、ゲームでいう経験値を積んでレベルアップをしたキャラだから、みたいな乗りで受け取れということだろうか。回避してきたとはいえ、毒の副作用は抜けているようだし。



面白い作品だったが、不満に近い疑問もある。序盤の虎。粗暴なのに一人称は僕という個性的なキャラなのに、あっさり死んでしまっている。あれも怪人で良かったのに。虎が潜伏していることは知っていたのに、対策を練っていないのも、盗賊仲間を見捨てたようにしか見えない。戦前の研究所を独断で燃やしてしまうという行動を取ったり、仲間をみすみす殺してしまったり(自分は別室にいたんだぜ)、チコが信頼するほどいい人ではないように思う。脅迫で押される形で白髪鬼の言葉に乗っているし、ちょっと意味が分からない。内面が描かれなかったからかも知れない。まあ、葛藤を描いてしまうと完璧性が損なわれるが、教授だって本当は軍に資金援助を受けるのを嫌がるくらい潔白な男だったなら水の第四形態の研究は設備の技術水準的に無理だと説明すれば足りたはず。教授の狂気を見抜けなかったのがイケナイとか、そういう話ではない。チコの健気さが良い方に向いたから作品の印象は素晴らしいが、詰めの甘さというか、訳の話からなさもあるように思う。
重大なヒントを堂々と出すくらいの計画性があるなら、話の筋が通る構成にしても良かったように思う。


いや、でも最後まで一遍に見たくなるくらい面白かった。原作にも手を伸ばそうか。ややッ。